証拠保全とデジタル・フォレンジック【後編】

前回の続きです。前編では民訴法上の証拠保全とデジタル・フォレンジックの違いを書きました。今回はその違いによって現場ではどういった運用の違いが生じるのかについて書いていこうと思います。

まず一番の大きな特徴として、民訴法上の証拠保全は期日までに時間がかかるということがあります。裁判所の手続きになりますから、まずは裁判所に申し立てが必要になります。そのために書面を揃え、裁判官、書記官(場合によっては公用車)の日程と申立人(多くの場合は代理人)の日程を合わせた上で期日が決定します。また、申立の書類は訂正を求められる場合も少なくありませんし、そもそも依頼人が代理人に依頼を行うまでに時間がたっていることもあります。過去に依頼を受けてから証拠保全期日まで1ヶ月の短い期間だった、という話を現場で聞いたことありますが、それが最短です。長いケースはいくらでもありますが、証拠保全の期日が時効直前だったということもあります。

一方のデジタル・フォレンジックは当事者の都合さえ問題なければ当日中にも可能な手段です。そのため、民訴法上の証拠保全では殆ど対応が不可能である揮発性データ(パソコンのメモリに残っているデータなど)も対象に復元、保全を試みることができます。

このように比較すればデジタル・フォレンジックの手法が優れているため、民訴法上の証拠保全は行うメリットがないように思えますが、現実的には民訴法上の証拠保全でなければ証拠収集ができない状況もあります。具体的には証拠が相手方に存在もしくは偏在し、相手方と争いがある場合です。いわゆる医療過誤や労働問題がこれに当たります。デジタル・フォレンジックの手法では相手方のパソコンやネットワークを止めた上で情報収集を行うため、相手方が、特に争いのある場合はそれに協力してくれることは現実的な問題として個人情報保護などの他の問題との兼ね合いも生じるため、ありえないでしょう。

反対に言えばデジタル・フォレンジックは民訴法上の証拠保全が及ばない領域において採用される手法です。具体的には刑事事件のような強制力のある捜査、あるいは民事だとしても、会社内の情報流出の流出元を辿る場合など依頼人が自身の持つ機器を解析したいときです。

このように実際に運用される状況や使用するツールは異なる両者ですが、それぞれの特徴が異なっているだけに、そこから学ぶものはあります。当事務所でも単に民訴法上の証拠保全の技術のみならず、広くデジタル・フォレンジックのような技術から直接採用できる手法ではなくとも、日頃から情報を取り入れています。