医療事故報告書は提出拒否されるべきではない

医療案件の証拠保全ではしばしば医療事故報告書(院内事故報告書)が検証対象物に上がります。事故報告書が作成される目的、ケースは様々ですが、病院側の見解として内部資料(専ら文書の所持者の利用に供するための文書)であり、これが提出されれば発言者の積極性を損ないかねるものであるので提出できない、というものがあります。そのために提出に応じる必要はないとする記載がインターネット上にも見られます。

経験の浅い裁判官はそのように病院側の言い分を元に検証不能にしてしまうこともありますが、当事務所はそれは間違いと考えます。

病院側の言い分は2点に分けられます。すなわち

  1. 内部資料であること
  2. 発言者の積極性を損なうこと

2.については発言者名をマスキングするなどして証拠保全すればよいのですから、病院側が拒否する理由には当たりません。見られるのも困る、という場合は裁判官のインカメラで検証対象を絞って進めてもらう現場もあります。では、1.についてはどうでしょうか。もともと内部検討のための資料である、というのは病院の担当者の記憶違いであったということがあります。すなわち、院内の安全対策委員会に確認してもらったところ、市や県などの行政、あるいは一般社団法人、保険にも提出した、というケースがよくありました。特に市立病院や県立病院などの公立病院では気をつけたいところです。行政や外部の法人に事故報告書を提出しているのであれば「内部資料」ではなくなり、1.の理由は成立しなくなります。それでも病院側が提出拒否するのであれば通常の検証対象を理由なく拒否するのと同様の位置づけになると考えられます。

病院側は提出に対して消極的になることも多い事故報告書ですが、そもそも事故報告書は存在する事即ち責任を認めることにはなりません。事故報告書があった、即ち勝った、と考える弁護士もいないと思います。事故報告書はなぜ事故が起こったのか、という申立人やその家族が最も知りたい疑問を明らかにする資料のひとつです。場合によっては事故の経過をカルテ以上に詳細に記載してあり、貴重な資料になりうるものです。事故報告書は積極的に提出されるべきとまでは言えなくとも、かと言って病院側は必要以上に消極的になる必要もないと考えます。